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『南陽のうた』(牧野房編)から [地元のこと]

南陽市のうた.jpg

牧野房先生から『南陽市のうた』(南陽市教育委員会 2016.3.13)をいただいた。昭和2年(1927)から平成9年(1997)までに詠まれ、出版された短歌集の中から691首、牧野先生がひろいあげ、テーマ毎にまとめられた。宮内に関わる歌の中からひろってみる。 


*   *   *   *   *


葡萄

雪の上の葡萄園の棚廃れしを照らしてのぼる冬の満月 

大室外次

桜桃

ゆるやかな丘陵地帯に段なして白き桜桃の花咲き満ちぬ

小林治郎

雨欲しと迂闊にわれは声掛けぬ桜桃収穫の最中(さなか)の君に

伊藤二男

まな下に養鯉池二つ光り見ゆサクランボ畑に鳥追ふ音す

大室外次

林檎

妻と共に園地作業に有るときを愉しと思へり貧しきながら

湯村五郎

台風に落ちたる林檎を丹念に拾ふ農夫に雨しきり降る

小野寺久子 

吾妻山

吾妻山かく間近く夕日照る愛情非情の襞(ひだ)交々(こもごも)に

錦 三郎

雪下ろすと屋根に登れば遠山の吾妻は午(ひる)の日にけぶりたる

悠久の象(かたち)とおもふ雪原の果につらなる吾妻山なみ

鈴木冬吉

吾妻山梅雨にこもりて置賜の青田煙れり膚寒きまで

上浦善助

吾妻嶺は雨に煙りて置賜の盆地海原の如く見えをり

二瓶精蔵

飯豊山

置賜の国原青靄(もや)こむる果に雪輝きて飯豊山聳ゆ

上浦善助

秋葉山

滝の音も蛙のこゑにきえゆきて秋葉山なみを月さしのぼる

須藤るい

入りつ陽のあかりまさびし山腹に澤立つ霧は虹映しつつ

湯村五郎

朝のいとまに見る町並の向山はくろき青葉となりし夏山

鈴木冬吉

熊野大社

宮ばしらのかげよりわれの稚児舞を見てゐたまひし母がこひしき

大前の昼のみ燈に眼はすゑて立ち舞ふわれの邪念なかりき

結城健三

證誠殿に百箇日籠り一遍はいづれの道を歩み去りきや

肩書は神社総代の一つ残りすがしき如しわが晩年は

黒江太郎

御手洗(みたらし)に湧き水たえずこぼるるは夕づく樹立(こだち)のなかにさやけし

遠藤達一

熊野の杜の鐘が聞こえ来早春の春のゆふべの雨にこころ和ぐとき

みづからを振ひ落とせしもののごと今朝一葉なき大公孫樹(いちょう)たり

鈴木冬吉


暮れなづむみ社の森に蜩(ひぐらし)の一つ鳴きをり梅雨の晴れ間に

笑顔にて稲穂持ちたる翁行く熊野大社の神輿に供へむと

舩山敏子

梵鐘の打つ音八つしづかなり氷雨降りゐる朝(あした)聞きをり

佐野憲一

吉野川

人間の思考を超え止み難く吉野川の流れ東に移る

黒江太郎

吉野川の川瀬のとよむ夕暮れに草笛吹きて遊ぶ少年

鈴木 茂

長谷観音

国のため玉と砕けしますらををとはに守りませ長谷のみ佛

佐佐木信綱

わが里の亡きますらをに華そへて心のたけを手向(たむけ)とぞする

秋の色よそにおとるなふるさとの我がつちかひし園のもみぢ葉  (「園」は須藤家別荘「水園」)

須藤永次

師の君の御歌をたびし長谷寺に安らにねむれますらをの霊

須藤るい

をぐらきに立たすみ仏蝋燭の灯を寄せ見れば目を伏せおはす

結城健三

双松公園

妹と背の光栄(はえ)ことほぐと山の上のみづ金色(こんじき)にかがやき匂ふ

佐佐木信綱

戦没者慰霊祭終りて人ら去り我は草光る山沢に入る

錦 三郎

時は移り忠とは何と疑える世にしあれども我等清掃す

山水辰二

ひたすらにはれのきびしき山に来て松籟ひそまる朝風聴けり (妹背の松)

須藤克三

公園のここの枯原陽のてりて時雨は街の上を降り過ぐ

そそりたつ幹と北側に反る幹と接触しあふ妹背の松は

鈴木信太郎

帰り来て日暮みじかければ燈(あかリ)もてさ庭に菊のわき芽を摘める

伸びさかる白大輪の菊の苗手入れ怠りて心芽をくづす

遠藤達一

屋外の暗さを部屋の灯に映し風避けむ位置に菊花移せり

丸川義雄

わがかなしみ人に言ふべきことならず菊人形紅(べに)の鎧が匂ふ

牧野 房

別所山・経塚

仏舎利にかはる籾米三千粒地下に沈めて土を平めぬ

北向きの山に一字一石経をさめ整ふ土に小松植ゑそふ

黒江太郎

この山に経を埋めしいにしへを思ひつつ置賜の国見はるかす

金子阿岐夫

別所山の碑のかたへに手植ゑたるアララギの新芽萌え立ちにけり

吉田誠一

宮内

灯に小さく屈み粽(ちまき)を結ひながら地唄口ずさみをりし垂乳根(たらちね)

笹の葉を漏斗型にし精白米(ましらげ)を包む巧みさに魅せられてゐつ

配給米尽きて幾日か草つもの朝夕に食ひぬいのち生きむため

堅香子(かたかご)の花見てゐしにをみな子の髪にさしやりし幼な日が顕(た)つ

結城健三

ぶっつりと茄子の塩漬はみゐつつ母と朝餉のうれしさにゐる

健やかにふた親おはす故里に帰ればなんにも願ふことのなく

須藤克三

夏まつり植木の市にわれは来て時を消しをり暑き西日に

初市の雪の路上にならべ売る臼杵俎(うすきねまないた)鉈(なた)ぶくろなど

初市の露店にひとくくりの寒椿青きその葉に雪つもりゆく

鈴木冬吉

笛の音と太鼓の音の鳴りひびき盆のおどりの輪が動き初む

山口精一

ふるさとの味をしのべと東京の吾子に色よき枝豆送る

自我至上の生き方うたがひ街を歩く生あたたかき風の吹く夕べ

小田たか

古稀すぎしわれを招きて美(うま)し秋の話せよとぞふるさとびとは

ふるさとの刈田のあとに立ちのぼるさぎりの動きほのかなる朝

あぶらのる鯵のひものを描きをへて酒の肴に焼く夕べかも

芳武茂介

ふるさとの訛りゆかしみ故郷(くに)びとと交す言葉も選びては言ふ

芳武源二

艦載機富貴田の工場の真が上を威嚇するごと飛び回りたり

山水辰二

故郷に帰ることなく忘れられし小田仁二郎の訃を聞きて寂し

吉田誠一

この細き宮沢川も冬川のひびきをあげて大寒に入る

金子阿岐夫

子らを率(ゐ)てわれ自らもはづみたりし盆踊なつかし囃きこえて

井上宏子

梅雨あけて祭りの御輿眩しかり供えし稲穂のともに揺れつつ

牧野 房

低き山に夕風寒く吹きつのり町のオルゴールの高くきこゆる   (「オルゴール」はドボルザークの「家路」)

二瓶精蔵

米沢藩が糧物(かてもの)とせし滑莧(すべりひゆ)日照りのつづく今年勢ふ

鈴木静江

ふるさと

忘るともなく忘れゐし国のことば今汝にきく嬉しさにゐる

須藤克三

初診料の二十銭をおし戴きて受取りき忘れめや開業の日の五人の顔

北に向く窓に立たしし先生と肩触れあひしことも尊し  (「先生」は斎藤茂吉)

黒江太郎

子規全伝買はむと蓄めし金さへやつひに生活費(くらし)にむけて了へり

春蘭をこよなく好むは少年の頃ふる郷の山に見しためならむ

春蘭の花芽を見つつふるさとの春の山べを他愛なく恋ふ

結城健三

ちかちかと光る遠くの灯を見つつ未明の丘にためらふ吾は

井上宏子

蓬萊院

茂吉先生の迎へまつりし歌会に恐れ気もなくわれ稚かりき

井上宏子

菩提寺の和尚寒行の鈴鳴らし靄の町なかを行きにけり

鈴木静江

正徳寺

街中の寺の門前(かどさき)に鵯鳥の下り来て鳴ける夕べ時雨るる

遠藤達一


*   *   *   *   *

 

この作業、けっこう時間はかかったが楽しい作業だった。実はあるインセンティブが働いていた。28年度南陽市商店街まちづくり活性化推進事業費補助金が得られることになって、新たに「宮内よもやま歴史絵巻」10枚を作成しなければならない、その一枚に「宮内のうた」版を入れたいと思い出したのだ。「宮内四季のうた」的な並べ方はどうだろうかと思ったりしているうちに、とにかくまず自分の感覚でピックアップしてみようと思い出したら、後回しにできることはどんどん後回し、とるものもとりあえずの作業でこれだけのうたが浮かび上がってきた。ここから春夏秋冬に分けて並べてゆくのもまた楽しい作業になりそうだ。


それにしても驚いたのが小田仁二郎のお母さんの「自我至上の生き方うたがひ街を歩く生あたたかき風の吹く夕べ」だった。小田仁二郎にとっての根源的課題はまさに母親から引き継いでいたのかと納得させられた思いでいる。



【追記 29.9.12】

祝!牧野房さんに茂吉文化賞

牧野房さん茂吉文化賞.jpg


9月9日の市民大学講座の時に、島木赤彦文学賞を授賞されたという新聞記事をいただいたところでした。

牧野先生、島木赤彦文学賞.jpg




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めい

祝!牧野房さんに茂吉文化賞

↑今朝の山形新聞、アップしました。
by めい (2017-09-12 05:47) 

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