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小関悠一郎著『上杉鷹山と米沢 (人をあるく) 』を読む [上杉鷹山]

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小関悠一郎著『上杉鷹山と米沢 (人をあるく) 』を昨年6月山形新聞の書評で知って求め、いい本と思いつつ全部読み切らないでいたのだが、12月17日に著者の小関悠一郎千葉大学准教授の講演「上杉鷹山の改革と学び—『富国安民』論とはなにか—」を聴いて最初から読み直した。かなりがんばった感想を書いていまアマゾンにレビューしてきたところです。


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逞しい鷹山公に出会えた気がしてうれしい


 上杉鷹山公の実像に迫る好著です。私には以下二点、目からウロコでした。

 一つは、鷹山公がなぜ34歳にして隠退を決意したのかの問題。これまでは、対幕府負担の多い藩主の地位から離れることで藩内改革に専念するための説があった。それに対して新たな視点が示される。鷹山公の隠退は天明4年(1784)、その2年前公とともに殖産政策を推進してきた竹股当綱の失脚がある。著者はその背景に、竹股が中心になって推進してきた「国を富まし、民を安んずるのは、地の利を尽くすこと」とする政策への反発を見る。

《注目されるのは、藁科(松伯)の次のような批判だ。”先年お上にて田を耕作し、菜蔬を売り、陶器を焼いて、縮を仕入れ、火打石から蕨ゼンマイまで販売して、専ら「興利の政」を行われた。このため、公儀(米沢藩)ですら藩の増収・利益を追求しているではないかとして、金融・商業に携わって利益をあげようとする武士が続出し、公然として営利を恥じない事になってしまったというのである。・・・「地の利を尽くす」をスローガンに「聖人の道」の実践という位置づけのもとに殖産政策を実施した明和・安永改革も、早期の藩財政再建が不可能な中、社会秩序の混乱を増長する「興利の政」と見なされ、行き詰まることになったのだ。》57-58p)この風潮を改めるための統治体制・人事一新、《それを最も円滑に行いうるのは、藩主の代替わりだったであろう。》58p)そうして公は、《財政再建を進めながら「風俗」の改革を図るという難題》62p)に取組んでゆくことになる。

 もう一つは、米沢藩政改革の根底にあった思想は「聖人」的儒学思想ではなく、まずもって「兵学」の思想ではなかったかということ。兵学における「詭道」について、《道理を説き聞かせても理解しない「愚民」を思いのままに「操作」するために、自身が信じてもいない鬼神や占いを利用したり、自己の真意とは異なる言動を演技・偽装することを容認するのである。こうした「詭道」の考え方は、理知的な道徳や君主の誠意・徳による教化によって人びとを正しい方向に導こうとする儒学・朱子学とは決定的に異なる》とし、《このような考え方は兵学と儒学の経済論にも鮮やかな対照をもたらす。低次の欲望を抑制・克服して徳を慎み、自己形成を図る儒学の経済論がおおむね倹約論を基調としたのに対して、兵学者は行動の原動力としての欲望解放論に立ち、積極的な経済策を説いた》92p)のだという。それがまた鷹山公隠退の理由に結びつく。

 以上2点、私にとって新鮮な視点だった。著者はさらに踏み込み、太宰春台の『産語』に至る。『産語』は、「どれほど自分の心身を修めても、国家を治める方法を知らなければ全く無益である」とする現実的経世論である。《万民の経済生活の安定こそが富国実現ひいては秩序道徳につながる》99p)。兵学と儒学の止揚である。米沢藩改革の標語「地の利を尽くす」の思想の基もこの『産語』に在る。米沢市立米沢図書館所蔵の『産語』の解「稽古堂蔵書」印があり、鷹山の書斎に置かれた書物。本文の欄外には墨と朱の書入れが見られるが、鷹山が勉強して書入れたものか。、たしかに鷹山公愛読の書であったにちがいない。

 著者は《師の細井平洲が説いた折衷学的学問方法を生涯一貫して尊重しつつも、儒学界の潮流に対して相当に敏感だった》104p)鷹山公の思想の進化を見据えつつ、米沢藩政改革の理論的背景をも明らかにした。鷹山公は最初から聖人たらんとしたわけではない。藩主就任以前ではあるが、13歳にして竹股当綱らによる森平右衛門誅殺に直面し、17歳、藩主となっては多くの改革策を打ち出しつつもその実りは遠く、23歳には七家騒動の解決を迫られる。そこには公なりの七転八倒があったにちがいない。《理知的な道徳や君主の誠意・徳による教化によって人びとを正しい方向に導こうとする儒学・朱子学とは決定的に異なる》「兵学」的思想がバックボーンにあったであろうことに納得する。逞しい鷹山公に出会えた気がしてうれしい。



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