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伊東光晴「アベノミクス批判―四本の矢を折る」を読む(承前) [政治]

上杉神社鳥居.jpg

先の文で「腑に落ちる」「落ちない」にこだわって書いたのは、111日にNHKEテレで「知の巨人たち 吉本隆明」を見たからだった。上杉神社の鳥居の下での学生服の集合写真。同期全員だろうか、吉本も入って100人ぐらい。戦争末期、軍国少年でありつつ吉本隆明の中にあったなんとはなしの「腑に落ちなさ」、それが戦後ものを考える出発点だったというナレーションだった。それが頭に残っていての先の文章だったが、そのことは書きながら気づいたことだった。昨日(13日)の山形新聞、「大場文雄 県内スケッチ」がちょうどその鳥居の絵で私なりにシンクロニシティの体験でうれしかった。 


さて、『アベノミクス批判』を読みつつ感じた私にとっての「腑に落ちなさ」は、ごくありていに言えば、伊東氏が全面評価する村山談話への異和と言える。

 

 《「わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を哀し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます」。》


伊東氏は「中国対日本の関係に絞るならば、この村山談話は『疑うべくもない』事実を認め反省の意を表したもので、議論の余地がないように思える。」(128p)と言う。「思える」であって断定ではないところに伊東氏なりの遠慮、あるいは「腑に落ちなさ」があるのか。ここで思い浮かぶのがマレーシア首相マハティールの演説だ。以下「日本なかりせば」演説(
1992.10.14香港にて)全文。

 

《過去のヨーロッパ中心の世界では、東アジアとはすなわち極東だった。そして極東は、異国情緒あふれる中国と竜のイメージ、お茶、アヘン、高級シルク、風変わりな習慣を持った珍しい人々など、奇妙で神秘的な印象を思い起こさせる場所だった。

 いまや極東は東アジアになり、気の毒だがヨーロッパのロマンチストの興味は減った。その代わりに政治家とエコノミストの関心の的となっている。ヨーロッパがアジアに対して懸念を抱いている事実は、この地域が、すでに今世紀前半の日本軍国主義以上に深刻な脅威になっていることを示唆している。こうした見方の底流には、不信感と恐怖がある。その理由は、東アジアの人々が自分達とは異なっている、つまりヨーロッパ人ではないという点にある。

 そのため第二次世界大戦後の枢軸国であったヨーロッパのドイツとイタリアが平和国家となって復興、繁栄するのは応援、歓迎されたのに、同じように平和国家となった日本と極東の「小さな日本」の経済発展はあまり歓迎されないように見える。

 それどころか、ヨーロッパとヨーロッパ社会を移植したアメリカはともに、さまざまな手段を使って東アジア諸国の成長を抑え込もうとしてきた。西側の民主主義モデルの押し付けにとどまらず、あからさまに東アジア諸国の経済の競争力を削ごうとしてきた。

 これは不幸なことである。東アジアの開発アプローチから世界は多くのことを学んできた。日本は軍国主義が非生産的であることを理解し、その高い技術とエネルギーを、貧者も金持ちも同じように快適に暮らせる社会の建設に注いできた。質を落とすことなくコストを削減することに成功し、かつては贅沢品だったものを誰でも利用できるようにしたのは日本人である。まさに魔法も使わずに、奇跡とも言える成果を創り出したのだ。
 日本の存在しない世界を想像してみたらよい。もし日本なかりせば、ヨーロッパとアメリカが世界の工業国を支配していただろう。欧米が基準と価格を決め、欧米だけにしか作れない製品を買うために、世界の国はその価格を押しつけられていただろう。

 自国民の生活水準を常に高めようとする欧米諸国は、競争相手がいないため、コスト上昇分を価格引き上げで賄おうとする可能性が高い。社会主義と平等主義の考えに基づいて労働組合が妥当だと考える賃金を、いくらでも支払うだろう。ヨーロッパ人は労組側の要求をすべて認め、その結果、経営側の妥当な要求は無視される。仕事量は減り、賃金は増えるのでコストは上昇する。

 貧しい南側諸国から輸出される原材料の価格は、買い手が北側のヨーロッパ諸国しかないので最低水準に固定される。その結果、市場における南側諸国の立場は弱まる。輸出品の価格を引き上げる代わりに、融資と援助が与えられる。通商条件は常に南側諸国に不利になっているため、貧しい国はますます貧しくなり、独立性はいっそう損なわれていく。さらに厳しい融資条件を課せられて「債務奴隷」の状態に陥る。

 北側のヨーロッパのあらゆる製品価格は、おそらく現在の3倍にもなるため、貧しい南側諸国はテレビもラジオも、今では当たり前の家電製品も買えず、小規模農家はピックアップトラックや小型自動車も買えないだろう。一般的に、南側諸国は今より相当低い生活水準を強いられることになるだろう。

 南側のいくつかの国の経済開発も、東アジアの強力な工業国家の誕生もありえなかっただろう。多国籍企業が安い労働力を求めて南側の国々に投資したのは、日本と競争せざるを得なくなったにほかならない。日本との競争がなければ、開発途上国への投資はなかった。日本からの投資もないから、成長を刺激する外国からの投資は期待できないことになる。

 また、日本と日本のサクセス・ストーリーがなければ、東アジア諸国は模範にすべきものがなかっただろう。ヨーロッパが開発・完成させた産業分野では、自分たちは太刀打ちできないと信じ続けただろう。東アジアでは高度な産業は無理だった。せいぜい質の劣る模造品を作るのが関の山だった。


 したがって西側が懸念するような「虎」も「竜」も、すなわち急成長を遂げたアジアの新興工業経済地域(NIES)も存在しなかっただろう。

 東アジア諸国でも立派にやっていけることを証明したのは日本である。そして他の東アジア諸国はあえて挑戦し、自分たちも他の世界各国も驚くような成功を遂げた。東アジア人は、もはや劣等感にさいなまれることはなくなった。いまや日本の、そして自分たちの力を信じているし、実際にそれを証明してみせた。

 もし、日本なかりせば、世界はまったく違う様相を呈していたであろう。富める国はますます富み、貧しい南側はますます貧しくなっていたと言っても過言ではない。北側のヨーロッパは、永遠に世界を支配したことだろう。マレーシアのような国は、ゴムを育て、スズを掘り、それを富める工業国の言い値で売り続けていたであろう。》
 

もうひとり、東京裁判で日本無罪論を主張したパール博士を思い起こす。広島の本照寺というところに「大亜細亜悲願之碑」というのがある。博士が2度目の来日の折、「『過ちは繰り返しませぬから』に代わる碑文を」との当寺住職の懇請に博士が応えて建立なったものという。パール博士が一夜想を練って揮毫されたという詩が刻まれている。

 

 激動し 変転する歴史の流れの中に

 道一筋につらなる幾多の人達が

 万斛の思いを抱いて死んでいった

 しかし 
 大地深く打ちこまれた

 悲願は消えない
   抑圧されたアジアの
解放のため 
   その厳粛
なる誓いに
   いのち捧げた魂の上に幸あれ
 ああ 真理よ!
 あなたはわが心の中に在る 
 その啓示に従って われは進む

   1952年11月5日
 ラダビノード・パール

 

11月6日、博士は広島高裁における歓迎レセプションに臨まれて、「子孫のため歴史を明確にせよ」と次のように述べられたという。

 パール博士のことば.jpgパール博士のことば .jpg

《 一九五〇年のイギリスの国際事情調査局の発表によると、『東京裁判の判決は結論だけで理由も証拠もない』と書いてある。ニユルンベルクにおいては、裁判が終って三ケ月日に裁判の全貌を明らかにし、判決理由とその内容を発表した。しかるに東京裁判は、判決が終って四年になるのにその発表がない。他の判事は全部有罪と判定し、わたくし一人が無罪と判定した。わたくしはその無罪の理由と証拠を微細に説明した。しかるに他の判事らは、有罪の理由も証拠も何ら明確にしていない。おそらく明確にできないのではないか。だから東京裁判の判決の全貌はいまだに発表されていない。これでは感情によって裁いたといわれても何ら抗弁できまい。

 要するに彼ら(欧米)は、日本が侵略戦争を行なったということを歴史にとどめることによって自らのアジア侵略の正当性を誇示すると同時に、日本の過去十八年間のすべてを罪悪であると烙印し罪の意識を日本人の心に植えつけることが目的であったに違いない。東京裁判の全貌が明らかにされぬ以上、後世の史家はいずれが真なりや迷うであろう。歴史を明確にする時が来た。そのためには東京裁判の全貌が明らかにされなくてはならぬ。・・・これが諸君の子孫に負うところの義務である。

 わたくしは一九二八年から四五年までの十八年間(東京裁判の審議期間)の歴史を二年八ケ月かかって調べた。各方面の貴重な資料を集めて研究した。この中にはおそらく日本人の知らなかった問題もある。それをわたくしは判決文の中に綴った。このわたくしの歴史を読めば、欧米こそ憎むべきアジア侵略の張本人であることがわかるはずだ。しかるに日本の多くの知識人は、ほとんどそれを読んでいない。そして自分らの子弟に『日本は国際犯罪を犯したのだ』 『日本は侵略の暴挙を敢えてしたのだ』と教えている。満州事変から大東亜戦争勃発にいたる真実の歴史を、どうかわたくしの判決文を通して充分研究していただきたい。日本の子弟が歪められた罪悪感を背負って卑屈・頽廃に流されてゆくのを、わたくしは見過ごして平然たるわけにはゆかない。彼らの戦時宣伝の欺瞞を払拭せよ。誤まられた歴史は書きかえられねばならない。・・・

 日本人はこの裁判の正体を正しく批判し、彼らの戦時謀略にごまかされてはならぬ。日本が過去の戦争において国際法上の罪を犯したという錯覚におちいることは、民族自尊の精神を失うものである。自尊心と自国の名誉と誇りを失った民族は、強大国に迎合する卑屈なる植民地民族に転落する。日本よ!日本人は連合国から与えられた〈戦犯〉の観念を頭から一掃せよ。》田中正明「パール博士のことば—東京裁判後、来日されたときの挿話」1995)

 

村山談話の国会決議には、50人の欠席があった。その50人にあったのはまさに、マハティール首相やパール博士に通ずる思いであったことを理解しなければならない。しかし伊東氏にこの思いへの視野は閉ざされているように思う。それはたとえば、あえて思いを異にする場に自らをさらす長谷川三千子氏に対する落合恵子氏にも言えたことだった。Amazonレビューで☆一つの無我夢中さん明らかに民衆蔑視的上から目線を感じてしまう。」という批判になる(私は無我夢中さんが言うように、伊東氏が「とりあえず主義」を「合理主義」より低位なものと考えているとは思えなかったが)。

 

伊東氏や落合恵子氏の視野の及ばないところに、それはそれで大きな世界が広がっている。パール博士の詩が刻まれた「大亜細亜悲願之碑」の「大亜細亜」は宮島詠士(大八)先生の遺墨であるというのが私にはなんとも感慨深いことだが、インド人のパール博士そして日中の架け橋としての宮島詠士とくれば、「東洋の理想」の岡倉天心が自ずと連想されるわけで、「大東亜戦争」に込められた意味をあらためて考えざるをえなくなり、そこから議論(対話)が生まれるはずなのだ。しかしtakahatoさん言われるごとく、「ただ、批判される側がほとんどこの議論を無視するであろう」、とすると、ここにこそ日本の不幸がある。しかし、決して克服できない不幸ではない。


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めい

マハティール!

   *   *   *   *   * 

◆平成30/05/12(土)  人生100歳時代はタイムマシンだ!
http://grnba.com/iiyama/index.html#ai05121

懐かしすぎる政治家,92歳!
ニッポン大好き!欧米は嫌い!生っ粋のアジア人
Mahathir2
Mahathir
Mahathir

なんと!92歳の爺さんが選挙に勝ち,マレーシアの首相になった.
(選挙で選ばれた)世界最高齢の指導者の誕生である.
その92歳の爺さんの名は,マハティール.
マハティールは大のニッポン贔屓! アメリカ嫌い!で有名だった.
(40年ぐらい前かな?)「ルック・イースト(日本人の勤勉さを見習おう!)」という政策で,東南アジアでいち早く経済発展を成し遂げた.

このことは↑マレーシアの国民だけでなく,ワシらの世代の日本人も,良~く覚えている.

それにしても今回,92歳のマハティールが,ナジブ前政権の巨額資金流用疑惑について,「失われた資金を回収し,政治への信用を回復する!」と,徹底追及の構えを示して闘って,勝った選挙戦!

これは↑まさしく“ロールモデル”だ.

“ロールモデル”とは…,自分にとって具体的な行動や考え方の模範となる人物のこと.人は誰でも無意識のうちに「あの人のようになりたい」というロールモデルを選び,その影響を受けながら成長するといわれる.

人生100年時代が到来している今,マハティールの若々しい気力と覇気は,ワシら老人のモデル(理想)だ.

大切なことは,単に長生きするというだけではなく,高齢になっても自分がヤリたいことをヤリ続け,それに情熱を傾け続ける強靭な精神力と体力を併せ持つことだ.

心や体が自分の言うことを効かない状態では,100%自分の思い通りの人生を実現できないし,充実した100年に出来ないからだ.

このことは↑老人だけではない.若い衆も同じで…,ひがんだり憎んだり,それでストレスを溜め込んで,体調を崩すと,すぐに病院に駆け込んだりの他力本願では駄目だ.

人を憎まず,ストレスを溜め込まず,日々淡々と世の中を眺め…
迷ったら,『てげてげ』や『放知技』や『文殊菩薩』を読み…
体調は…,運動と,入浴と,小食と,自家製の玄米乳酸菌etc.
あと,1日に数回,外に出て深く深呼吸をする!
これは↑ぜひともヤッてみて!>皆の衆

ちなみにマハティールは,仕事と小食が長寿の秘訣だってさ.
よし! ワシも,土曜・日曜など関係なく仕事だ!
蜜蜂の巣箱の掃除と,蜜蜂に乳酸菌を飲ませる仕事.
飯山 一郎 (72)

by めい (2018-05-13 01:18) 

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